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更新日:2009年1月6日

セーフティネットワーキングチーム座談会

「貧困の連鎖」どう断ち切る
生活保護制度と現場の未来を考える

 終身雇用制度や家族機能などに支えられた日本型セーフティネットは崩壊し、「貧困」が拡大しています。その矛盾の多くが生活保護制度に持ち込まれ、生活保護職場の厳しさは増しています。セーフティネット・ワーキングチームでは、約1年間にわたって奈良女子大学名誉教授・澤井勝先生の指導の下、改革が求められる生活保護制度に関する研究・検討を行ってきました。

 そんなワーキングチームに産経新聞に連載された「明日へのセーフティネット」をまとめた「生活保護が危ない」(註1)を昨年9月に出版した山口敦記者が取材をかねて参加。さらに「反貧困」の活動にとりくむ普門大輔弁護士も登場。いつもより豪華メンバーとなった会議風景を座談会風にまとめてみました。

  

「生活保護」をめぐる認識の乖離を描く

司会-最初に山口記者から連載記事「明日へのセーフティネット」を取材された動機や反響などについてお話いただき、問題提起をお願いします。

山口-保護費支払日の西成区役所を取材したときに受けた衝撃がきっかけでした。半日あまりで5億円近い保護費が窓口で淡々と支給されていく。すごいことが起こっていると感じ、取材を始めました。

 その後、生活保護をマスコミが取り上げるようになりました。北九州市のいわゆる「水際作戦」による餓死事件や北海道滝川市の介護タクシーを使った保護費詐取事件。浪速区の個室ビデオ店放火事件では犯人が生保受給者であることが大きく報じられました。

 取材で感じたことは生活保護に対する人々の認識の乖離の大きさです。「生活保護の生活に余裕なんてない」と怒る受給者に対し、「(被保護者の)わがままな生活ぶりは目に余る」との批判もある。一方で母子家庭のお母さんからは「頼るところもなく、子どもにどこまで教育を受けさせられるか不安」との声も。同じものについて語りながらこの乖離は何だろう。どうしてこんなに人々の意識が分断されているのだろうと感じました。そこでできるだけ幅広い人たちから生活保護の話を聞きました。様々な立場からは一歩引いて、出来る限り多くの人や現場を訪ねて歩くことで全体をとらえよう。記者はそれができる職業だと。

西森(西成区支部)-私は保護ワーカーを離れたとき地域の人に生活保護や受給者をどう思うか聞いてみました。ほとんど興味をもっていないというのが実感でした。情報もないし、保護率の高い西成区でも保護を必要としない人にとっては遠い問題でした。

中島(民生支部)-無関心なのでしょうね。しかし、無関心は排除につながります。ヨーロッパでは「社会的排除に抗する法律」などを制定して排除された人々の社会統合にとりくんでいます。

貧困の連鎖を断つために

岩部(民生支部)-最近、子どもの虐待と貧困が結びつけられて議論されます。被虐待児の親の20%が生保世帯だという調査もあります。その親自身が貧困家庭で虐待されて育つなど、虐待や貧困の背景には非常に根深いものがあります。貧困や虐待の「連鎖」についてどう思われましたか。

山口-取材では連鎖を断ち切り、子どもを自立させていく作業がいかに大変かを学びました。同時に、貧困の連鎖をどう断ち切るかが生活保護を考える上で一番重要な課題だと思いました。

森(此花区支部)-保護すれば連鎖が断ち切れるものではありません。生活保護費も、悪徳な業者にとってはある種の「利権」と化しています。すぐに申請書を渡すのではなく相談からはじめるのはそのためでもある。「水際作戦」との批判には違和感があります。

中島-申請権の尊重は大切ですが、保護しただけでは引きこもって体調を壊したり、寂しさから再び酒やギャンブルに走るなど問題解決しないケースも多いですね。

普門-保護申請に同行する活動に対して、「畳に上げたら終わりか」という批判を受けますが、決してそれで終わりとは思っていません。例えばアルコール依存の人にはクリニックやNPOにつなげるなどのフォローに努めています。その意味ではケースワーカーの皆さんと協働していきたい。しかし、残念ながら保護を抑制するために申請書を渡さない自治体が多いのも事実です。

新たなセーフティネット検討会の提案について

山口-新たなセーフティネット検討会の提案をどう評価しますか。現場取材では必ずしも反対ではなかったのですが。

柴田(西成区支部)-個人的にはあまり賛成できません。稼働年齢層の有期保護制度は、有名無実化すると思います。高齢者の切り分けは基礎年金部分と合体するなどの抜本改革でもしない限り意味がないのでは。

普門-法律家としては、有期保護制度導入は生存権的に問題と言わざるを得ません。就労支援も雇用制度とあわせて考えていく必要があるでしょう。

山口-しかし財政の問題も無視できないですよね。全国で年間2兆6000億円。大阪市だけで2300億円。75%が国庫負担とはいえ自治体の財政負担は深刻です。

求められる制度改革について

司会-では生活保護に求められているのはどんな改革でしょう。

-生活保護を地域福祉の中にどう位置づけるかがひとつの課題です。しかし、実際には町会の役員に受給者はいませんし、地域で活動する人たちには自分たちと受給者は違うという意識が強い。西成区ではどうですか。

西森-西成区では地域福祉アクションプラン推進委員会に生活保護部会があり、そこが発信しています。つながりをつくることが大切と、受給者を交えて清掃活動などにとりくんでいます。まだまだ課題がありますが、地域と行政が一緒にとりくんでいることは大きいと思っています。

山口-ボーダーライン層が貧困の連鎖から脱する踏み台のような仕組みがが必要です。とりあえず住むところの確保とか。引きこもりがちな高齢の生活保護受給者が、社会的存在と認められるような場を、作ろうと苦労しているNPO団体もあります。

普門-労働の問題も避けて通れません。福祉と労働、住宅など総合的に考えていく必要があると思います。

澤井-今日の議論で問題点はかなり整理されたと思います。居宅保護であれ就労自立であれ、人は孤立しては生きていけない。私の知る生活保護施設は町会と一緒に清掃活動にとりくむなど、施設を地域に開く活動を通じて入所者と地域とのつながりをつくっています。また、施設を出て自立した人たちにも施設設備を開放し、支援を続けています。西成区のとりくみもすばらしい。まだまだ偏見も強いと思われるので、これまでのとりくみを大事にしながら、あせらず積み上げていくことが大切だと思います。


註1.「生活保護が危ない~『最後のセーフティネット』はいま~」産経新聞大阪社会部(扶桑社新書)