更新日:2008年11月12日

自治体財政危機と労働組合Ⅱ

帝塚山大学大学院法政策研究科教授 中川 幾郎

職員参加で人事政策の革新を
「組合も人事政策について提言を」と話す中川教授

 自治体改革の中で、お金がかからずもっとも大きな効果を生むのは、人事制度の改革であろう。職員が動機付けを与えられてやる気になるのも、やる気を失うのも人事配置によるところが大きい。人事に関しては、非常に評価が難しいと言われるが、実はさにあらずと思っている。

 私は総務省の人材育成アドバイザーとして全国の市にうかがい、人事制度の設計や職員評価のベンチマーク(指標)に関する相談を受ける。そんなとき、私は「評価システムづくりを職員参加でやっているか」を必ず聞くようにしている。

 職員自らが評価して欲しいところがあるはずだ。例えば病院の看護師なら、一般職における共通の人事評価モデルに専門職的な観点から応用を加えなくてはならないが、こうした人事評価のベンチマークを開発する作業は、職員参加でやるべきだ。そうでないと誰も納得しない。トップダウン型や密室で作られたベンチマークを職員は信用しない。たくさんのシートを作っても、職員の士気は上がらず、職場も活性化しない。だから人事改革は職員参加でと、自治体関係者にアドバイスしている。

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 ベンチマークの開発以上に大事なのは、人事ルールを明確にすることだ。昇格に際して一定期間以上現場経験を有していることを条件に付すなどは、一切お金は要らない。神戸市では、区長(局長級)には本庁の局長級を2年程度経験した者しかなれない。そうすれば本庁の企画畑だけ歩いて、現場や区役所を経験しない人がどんどん出世していくということはなくなる。そういう組織文化改革が必要なのではないか。

 前市長は管理運営事項として、こうした課題について労働組合と話し合うことを拒まれたようだが、ボトムアップ型の行財政改革を行うためにはステークホルダー、つまり共同経営者としての労働組合と話し合うべきだし、組合ももっと発言していくべきだ。

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 将来的には、人事評価と政策評価と総合計画における目標数値が、相互に連動しなくてはならない。総合計画は、基本構想部分だけが議会の議決を必要とするが、本体はその下にある基本計画である。基本計画は前期・後期に分けられたりもするが、目標数値は全てこの基本計画に入っている。例えば観光客数が昨年1000万人だとすれば、5年後には1500万人にするなど。

 このように、目標数値には毎年行うアンケート調査や統計年報で検証できる数値をアウトカム指標(ある政策によりサービスを提供した結果として住民にもたらせる成果を指標としたもの、行政満足度)として設定されている。目標数値のない総合計画はアリバイ型計画と呼ばれる。つまり実行性がない。一方、計画の目標数値を設定すると、計画策定時の管理職に責任が生じ、目標を達成すると業績評価になる。つまり人事評価は上級職になればなるほど業績評価の比率が高くなる。逆に初級職に近くなればなるほど、人事評価は能力評価になる。なぜなら初級職は業績を上げようにもチームに属して仕事をするので、個人の業績というのは評価の仕様がないからだ。

 同じく若手は集団評価の比重が、管理職は個人評価の比重が高まる。いい加減な目標数値を書いて、達成できなくても出世できるなんて上司に部下は絶対ついていかない。
 このように本来、総合計画そのものが精査され慎重に作られ、目標数値も明確にされている時代にあってこそ、科学的な人事評価もなしうるということを忘れてはならない。

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 岸和田市や寝屋川市で試行に入っている、360度評価モデルについてご紹介しよう。まず部下からの評価。23人の部下を持つ課長は、23枚の評価をもらう。一人ひとりは主観的に書いても、集団として書かれると一定の客観性を帯び、科学的考察の対象となる。世間で言う、実力はあるが徳がないという幹部の登場を防ぐことができる。

 これに直属の上司及び同僚からの評価が加わる。岸和田・寝屋川方式では、あと二人サポーター役の評価者を指名できる。自分が信頼している上級職の評価を、いわば「斜め上」からの評価としてもらえる。上司と部下との間に厳しい理論的対立があったり、政策をめぐる応酬があったとしても、第三者的評価が同じ上級職からももらえるようにしてあるわけだ。これで360度となる。

 設問項目は、科学性を担保するには15~25項目くらい必要だと思っている。荒っぽいところは5~6項目で済ましているところもあるが、ひとりの人間の昇格や適材配置の運命を決定するのには少なすぎるのではないか。

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 労働組合には以上のような観点から、人事政策についても政策提言していってもらいたいが、それは大きな組織にありがちな内向的文化を外交的文化に切り替えるということをも意味する。

 私が所属する自治体学会は、3000人の会員のうち2000人が自治体職員だ。多くの自治体職員が他流試合や対外試合を求めて自治体学会に入ってくる。大阪市は巨大組織だが、他の自治体職員と交流することは刺激になるはずだ。労働組合がこうした自己啓発活動への動機付けを与えるのも必要なのではないか。《次号に続く

9月30日学習会講演要旨・文責編集部