HOME大阪市職の活動と見解 > 市職連続講演集会(1) 2006年3月27日

掲載日:2006年4月14日

「リスクの社会化」は世界の常識
小泉路線では命を金で買う社会に

「小泉政治への対抗軸」
3月27日市職連続講演集会(1)を開きました
進む「リスクの個人化」
市職連続講座で講演する山口二郎さん(北海道大学教授)

 小泉政治の5年間、いろんな面で「リスクの個人化」は進んだ。一番典型的なのは、自殺者の増加だ。1年間で3万数千人が自殺しており、先進国の中では最も多い数字だ。その内、9千人ぐらいは経済的な動機であり、借金とか失業を苦にした自殺というのは、リスクの個人化の最も悲惨な姿だ。これが政治の問題として意識されておらず、非常におかしな現象だ。

 それで得する人はあまりいないが、なぜ人々はリスクの個人化路線、小泉政治というものを支持するのか。これは「リスクの社会化システムの機能不全」という問題だ。本来、公的年金や医療保険制度は、国民全体が負担して、国民全体が受益者になるはずだ。

 従来、会社が半分社会保険料を負担するが、急増する非正規雇用の人々は、国民年金や国民健康保険をはじめとしたリスクを社会化するための費用を全部自分で被っている。年収300万ぐらいしかない人にとって、月々1万数千円の国民年金の掛金を払うということは、大変な痛手だ。本来リスクを社会全体で分担するためにできたはずの仕組みが、非正規雇用で低賃金労働をしている人たちにとっては、単なる「搾取」の仕組みでしかないという問題がいま表れている。

 また、大都市から農村部への財源の移転という仕組みも都市部のサラリーマンから見れば「搾取」の仕組みでしかない。都市のサラリーマンが苦労して払った税金で、田舎の農家や土建屋がのうのうと暮らしている、けしからんと憤る人が増えている状況だ。

語られない「リスクの社会化」解体後

 表面的な「搾取」の仕組み、あるいはリスクを社会化するための仕組みが、むしろ不平等を作っているという実感。これは、小泉政治の一番ターゲットとした現象だ。そこをうまくついて「官から民へ」「小さな政府へ」というスローガンをぶつけ、リスクの社会化の仕組みをどんどん解体していく。そうすると、搾取されていると思っている非正規雇用や都市のサラリーマンにとって、ある種の鬱憤晴らしという感覚を与えることができる。

 つまり、「公的なリスクの社会化のシステムを解体していけば、あなたがたの負担は取り敢えず減りますよ」ということだ。しかし、これで問題はますます悪化するだけだ。見かけ上の負担を減らしたものの、これからの時代の高齢者の年金、医療費をどうするのかといった時に、本当にすさまじいアメリカのような混乱が起こるに決まっている。そこのところを、口を拭って語らないのが小泉政権のブレインたちだ。

小泉政治の本質は「最後は命を金で買う社会」を作ること

 日本の現状は、人々の生きる基盤というものがどんどん脆弱になっており、誰もが弱者になり得るリスク社会に向かっている。小さな政府を作ると国民はもっと豊かになるというのは、インチキな話だ。医療や介護は、必ず一定程度はお金を使わなければならない。違いが出るのは個人、民間の側でどれぐらい出しているかということで、スウェーデンやドイツを見ると、医療介護の大半は公的支出、つまり社会保険や税による社会福祉によってカバーしている。個人の持ち出し分は非常に小さい。

 これに対してアメリカは公的支出の割合が極めて低い。アメリカではかなりの部分、医療費や介護費を個人個人が負担している。個人個人が市場を通して提供される医療・介護サービスを購入するため、お金がある人ほどよいサービスを受けることができるという結末に至る。つまり、「最後は命を金で買う」という社会を作るということになる。国民の大半はやっぱり命を金で買う社会にはしたくないと思っているはずだ。そういう選択肢をきちっと示すということ、そして、小泉流新自由主義の本質は、最後は命を金で買う社会を作ることだということを、国民に訴えていくということが必要だ。

「リスクの社会化」は世界の常識

 リスクを社会化する適度な政府というものを作るための条件は2つ、「公共セクターに対する信頼性を回復する」「政策における需要と供給のミスマッチを是正する」ことだ。

 公務員の仕事ぶりについては、人々は非常に低い評価しかしていない。これはいろんな意味でマスコミが伝えるイメージみたいなものが大きく影響している。そこは公務員の皆さんの地道な働きで、弱者のために働いているのだということを理解してもらうしかない。

 それから、国全体で予算配分をすれば、どうしてもミスマッチが起こる。もう少し狭い範囲の政治の単位で実質的な資源配分、予算配分ができるような仕組み、即ち財政面での地方分権ということをきちっとやり、地域特性に応じて、市民の必要としている所に過不足なく予算配分をするというような分権的なシステムを作っていくことが重要だ。

 小さな政府万能論がまかり通っているのはアメリカだけ。医療の荒廃、あるいは貧富の格差の問題等々を通して、アメリカ人もやっぱりこれで本当にいいのだろうかという問題意識を持っている。去年の8月末のハリケーン、カトリーナの襲来も、小さな政府路線の矛盾を教える非常に大きな出来事だった。

 イギリスは、サッチャリズムの時代に小さな政府の時代をくぐったが、やはり人間が人間らしく生きていけるような最低限の条件整備、環境整備をすることはこれは政治の仕事だということで、今は保守党も含めて誰も小さな政府とは言わない。むしろ保守党が労働党にすりより、教育とか医療を中心とした公共サービスについては、しっかりやっていくことを主張している。

 リスクの社会化路線は世界の常識だと大いに自信を持って、日本でもそういった政策を進めていく政治勢力を何とか作っていくことが必要だ。皆さんもいろんな場でリスクの社会化路線に向けてしっかりと議論をし、また仕事の中でそれを実践していって欲しい。

(3月27日、大阪市職主催・連続講演集会での講演要旨)

山口二郎教授のオフィシャルサイト