更新日:2009年4月23日

市職自治研集会開く

記念講演~地域から市政を変える(その2) 岩崎恭典さん
「マツモトキヨシ」市長の時代がもたらしたもの
講師の岩崎恭典さん

講師:岩崎恭典さん
【プロフィル】現、四日市大学総合政策学部教授・大阪市行 財政改革検討委員会委員1956年、京都府生ま れ早稲田大学大学院政治学研究科修了、財団法人地方行政シス テム研究所研究員、中央学院大学法学部助教授等を経て現職

 では私たちがこれからどう考えていかなければいけないのか。1つはやはり人口が減っていく中で、今日よりも明日がいいと確実に思われる時代に作られた仕組みを、ゼロベースで見直す必要が絶対あります。その時に重要なことは、人口増加の中で、行政は多くの仕事を自ら引き受けてきたということであります。正にあれもこれもの時代です。

 例えばその最大のエポックメーキングな年が、高度経済成長真っ只中の1969年です。この年、千葉県の松戸市に1人の市長が誕生します。今を去ることジャスト40年前です。その市長の名前は、カタカナで書くとマツモトキヨシ。あのドラッグストアチェーン店、「マツモトキヨシ」の創業者です。

 あの人は、松戸市長になり、住民はお客様、お客様は神様だと顧客主義を標榜し、住民の痒いところに手の届くような行政をやらなければならないと仰いました。そして何をやったのか。ご存知の通り、どこの課にも属さない職員を配置し、軽トラックに竹箒とスコップと砂利を積んでおいて、市民の皆さんから電話があったら、それに応じて何でもすぐやる、いわゆる「すぐやる課」を作ったのがこのマツモトキヨシであります。これができたのは、右肩上がりの時代だったからです。市長のわがままで経費が少し増えたとしても、来年以降は税収増でカバーできると確実に見通せたから、すぐやる課もできたのです。

 これが日本の自治体行政がいろんなことをやる契機になったことは確かです。マツモトキヨシが出てくる前は、地域のどぶ掃除は、日を決めて近隣の人がどぶさらいをやり、泥については役所が持っていくということをさりげなくやっていました。ところが、すぐやる課ができたら、市役所に電話すれば自分の家の前のどぶを掃除してくれるんです。かくしてどぶ掃除は市役所の仕事になりました。公園の管理だってそうです。日曜の朝あたり、地域の人がみんなでやっていた草むしりも、マツモトキヨシが出てきてからは、市役所に電話すれば、すぐやる課か、あるいは委託された造園業者さんが草刈りをするということになって、公園の維持管理は、基本的に市役所の仕事になりました。

 あれもこれもできたんです。市役所の仕事、役所の仕事は、どんどん増えました。増えれば職員を採用して、仕事を増やしていったという経緯でありました。しかし、これからはその仕組みを続けていくのはもう無理なんだということです。そのことだけは是非正確に思っておいて頂きたいと思うのです。

 市があまりにもいろんなことをやり過ぎて、本来市が支えるべきセーフティネットが、ぼろぼろこぼれてきているのが現状です。

 最近の生活保護の問題もそうです。地域には生活保護しかセーフティネットがない状況が露呈してきているというのは、大きな課題です。試行錯誤がないまま、最後の手段としての生活保護にダイレクトに行くというような状況。しかも生活保護をなかなか維持できない構造的な仕組みがある。本来であれば、私たちが税金を支払って維持してくださいとお願いしているはずのセーフティネットにまで手が回らないほど、いろんなことを行政が仕事にしてしまったという経緯だったと思うのです。

 だったら人口が減っていく今後、自己決定、自己責任がさらに言われる中で、仕事を区別しなければいけない。そういう状況であることは確かです。つまり「あれかこれか」であります。

 「あれか」を今仮置きで「セーフティネット」とします。重要なことは、セーフティネットに相当する「あれか」を絶対市は維持しますという宣言がないと、「これか」の部分について市の責任でやることは止めるということを、住民の皆さんに納得してもらえないということです。あれもこれもやってくれた時代が、少なくともマツモトキヨシ以来40年経っているわけです。

 極端な例ですが、ある町で、地域のささやかなお祭りに対して補助金を出していました。その補助金が本当に効果的かどうかは、役所は行政の説明責任を果たすために様々な評価を受けます。けれど私は補助金を受けた団体も当然説明責任を果たさなければいけないと思いました。税金の一部を使うわけですから。そこで私が行革委員会で提案し、団体の皆さんにも説明をしてもらうことにしました。その結果、あまり効果をうまく説明できなかったので、補助金を次年度から切ることになりました。そうしたら、来年からお祭りはもうやらないと。ちょっと愕然としました。では今まで補助金があるからお祭りをやっていたのか。もっと驚いたのはその後です。後日、団体が補助金を辞退したんだから、当日職員を手伝いに出せと言ってきたんだそうです。そういう形で職員を使うほうがおかしい。職員には本来やってもらわなければいけないことがある。ここで言うと、「あれか」をセーフティネットと決めたのであれば、それを維持するために、職員には働いてもらわないといけないわけです。

役所が担ってきた仕事を市民に返す仕組みを考える

 「あれか」を決めた場合に、「これか」をどうするかというのは大きな課題です。「これか」の部分をどういうふうに区分するかです。

 私は、例えば、狭い地域でなければ有効ではない仕事と広い地域でなければ効率的とは言えない仕事に区分できると思っています。介護保険で言えば制度運営や施設の入所、要介護認定審査会は広域で効率的に行う。一方で、地域の介護福祉を担う包括支援センターは、狭い地域でなければ有効ではないので狭域で効果的に行う。

 ごみもそうです。焼却するのであれば広い地域でなければ効率的ではないはずです。厚労省基準でもおよそ人口30万人というような話です。けれども分別を徹底させるとなると、小さな地域でなければ有効ではありません。

 ところで考えてみると、この狭い地域でなければ有効ではない仕事として分類したものの多くは、実はマツモトキヨシが出てくる前は、地域でさりげなくやっていた課題なのではないか。そしてそれは今、「あれか」をセーフティネットと考えた時の「これか」の部分で、市民にお返しできる仕事なのではないか。そんなことを少し考えています。しかもここが重要なポイントでありますが、これはタダではないということです。金もうけと言っても、大した金にはなりませんが、有償で返すことができるというのが、重要なポイントだろうと思っています。

 例えば、一人暮らしの高齢者に対する支援サービス。私の関わっているところで言うと、三重県のある町の自治会は、1人暮らしのお年寄りのところのごみを自治会が全部回収し、回収したごみを分別して、資源のごみについては売って収入を得るということを一生懸命考えていました。サブプライムローン以降の不況で今はストップしていますが、そんなことをやろうとしている町内会、自治会があります。

 高齢者の家事代行サービスや移送サービスなどには多くのNPOが取り組んでいますよ。つまり、マツモトキヨシから40年経って、かつて住民がやっていた仕事の多くを一旦役所がやるようになって、それをもう一度住民に返そうという時に、タダではなくて返せそうな仕事が、狭い地域でなければ有効ではない仕事の中にかなり含まれているということです。

 広域効率的な仕事は、大阪市単独よりもっと効率的にやるためには、例えば議論されている関西州や国でやることも検討する。一方で狭い地域でなければ有効ではない仕事は一旦区役所事務にして、市民に返す仕組みづくりを検討することが必要なのではないかと思っているわけです。

 《その3に続く→