更新日:2008年11月12日

自治体財政危機と労働組合Ⅲ

帝塚山大学大学院法政策研究科教授 中川 幾郎

地域分権と組織内分権が重要
「分権化とは予算と権限を移すこと」と力説される中川先生

「分権化とは予算と権限を移すこと」と力説される中川先生

 今日(9/30)の新聞に「ニューヨーク株777ドル安」とある。大変な暴落だ。下手すると大恐慌の再来にもなりかねない。こういう厳しい時代に、私たちは追い風どころか向かい風に向かって政策提案や自治体のあるべき姿を語っていかなければならない。危機に強い労働組合になっていただきたい。そのために大企業や大組織に見る危機の表明化の共通点を押さえておきたい。それは内部文化と外部環境にはなはだしい落差が生じたときに発生する。

 外部環境との落差を見失ってしまうと、知らないうちに内部の閉鎖的な環境の中で、精神も肉体も滅んでしまう。そこには「隠しておけばいい。表に出すなよ」という隠蔽主義や「いちいち相手にしないで放っておけ」という不作為主義がはびこる。10数回のリコール隠しのあった三菱自動車は、株価が3分の1まで落ち込み、企業崩壊寸前までいった。不二家も同じ。日興ホールディングは会社が潰れてしまった。

 モラルの崩壊も深刻な問題を招く。社会保険庁やコムスン。最近では取引停止になった人材派遣会社も出た。全てモラルの崩壊が背景にある。さらに危機管理意識のなさや失敗に対する鈍感さ。これは外務省や農水省に見られる。農水省は、BSEの問題の先送りで批判されながら、今度は汚染米の処理で同じ失敗を繰り返している。

 これらの失敗に共通するのは「内向き文化」である。外に対する鈍感さ。そして組織の自己目的化。自己目的化とは、存在することそのものに意味があると思ってしまうことや、自分の仕事が何のために、誰のためにということを考えることをやめてしまうことだ。だから労働者は、誰のために何のためにということを常に問いかけていかないと労働現場の荒廃を招くということを認識し、自己抑制や内省を踏まえた上で、労働組合における政策提案能力、政策批判能力、政策指導能力を高めていっていただきたい。

◇   ◇   ◇

 分権時代、そして財政危機の時代における自治体の不可避な政策方向について考える。結論を先に言うと、地域分権と組織内分権を進めなければならない。今、地域社会は崩壊の危機に瀕している。大阪市で言えば、地域振興町会というシステムがあり、非常に長い歴史を持っている。戦後、日本赤十字奉仕団からスタートし、当時の熱気と活動力は注目すべきものだった。しかし、今リーダーといわれる役員の方々の平均年齢は随分高くなり、後継者も育っていないところが多い。

 このままでは、大阪市が地域社会への足がかりとして依存してきた振興町会は、あと5年から10年で崩壊の危機に瀕する。その時、地域の防犯や防災、地域の防御力はどうなるか。これに対して政策的な能動的な手は打っているのか。高齢者や障害者、外国人なども含め、多様な人々が一緒に暮らしているのが地域である。その地域をもう一度、新しいコミュニティとして再生していく。そのために地域振興会にどうなってもらいたいか。社会福祉協議会にはどうあってもらいたいか。PTAは。防犯協会は。各部局が縦割りの市民団体を管轄している時代ではない。何とか横に手を結んで、少ない資源を効果のある形で組みなおしていくことが求められている。

 また、例えば地域に道路のパトロールや公園の管理などの指定管理者を受けてもらい、資本の外部流出を防ぐというような視点も重要だ。指定管理者の導入で経費節減を図ったといいながら、実は委託料は全部、東京の本社に流れているということがよくある。そうではなく、循環経済関係の中で、地元の住民に公共の仕事が振り代わっていく。あるいは、地元のNPOや企業が儲かっていく。そういう発想をすると、もっと地域に主権を移して、地域コミュニティ団体や地元のNPOが公共の仕事を担うことによって、行政を自分も一緒に支えているという関係が形成される。ビジネスとしてお互いに分担できるようになり、住民の行政理解はもっと深まるはずだ。

 そのためには行政における組織内分権が不可欠だ。特に区役所への分権。今の大阪市では区長は局出身の部長級と聞いているが、本庁の局長級と対等に交渉ができるようにするためには、局長級にすべきだ。現代の「地方長官」として自立した経営能力と責任と権限を渡すべきだ。区役所管内の、少なくとも防災・安全・教育・福祉・文化、あるいは都市計画等に関しては、区の中で処理し、完結できるということにならなければ、本庁の身が軽くならない。

 分権化とは予算と権限を渡すことだ。その時、それに相応した責任も渡される。予算も権限も渡さないで責任だけ追及される分権などありえない。従って組織内分権は専決権をどんどん下に下ろしていくことを意味する。実態的に権限を形にしていくには現場から提案をどんどんあげていくことが必要だ。スクラップ&ビルドとは本来そういう権限奪取の手法であるべきだ。ご奮闘を期待する。

◇   ◇   ◇

 3回にわたって中川先生の講演を紹介した。実際の講演ではもっとたくさんの示唆に富んだお話しをいただいたところだが、紙面の関係でこれだけしかご紹介できない。ご容赦をお願いする。なお、この講演録の文責は、編集部にあります。《連載終了》

9月30日学習会講演要旨・文責編集部