更新日:2008年11月12日

自治体財政危機と労働組合Ⅰ

帝塚山大学大学院法政策研究科教授 中川 幾郎

求められる労組の政策提言能力
中川幾郎さんの写真

 大阪市の労働組合は大きく、大変大きな政治的パワーを持っておられる。それだけに責任も大きい。労働者の代表として、その権益や立場を守るのは当然だが、それ以上に現下の厳しい財政の現実を前にして、正々堂々と経営議論を行って欲しい。

 そのためにも大阪市は肥大化した企画や総務部門を縮小すべきである。一方、企画・総務部門の能力を現場部門が持たなければならない。企画・総務が作った計画を現場が実現するような役割分担の時代は終わっている。所管している部門の政策は自身が評価し、スクラップアンドビルドも含め政策提案能力を現場自身が持たなければならない。

 今日、財政状況が非常に緊迫化した中で、トレードオフを働かせる必要がある。トレードオフとは優先劣後の決定という意味だが、政策的行動と同義である。政策的行動とは限られた乏しい資源を集約化・集中化し、5年先10年先を見越しながら、穴の開きそうなところは開かないように、あるいは伸びそうなところはより伸びるように手を打っていく、いわば投資的行動といえる。

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 今までの行政は長期的ビジョンに基づいて行動することはあまりなかった。高度経済成長期終了後は擬似福祉国家型の政策構造が完成し、若干の微調節が政治家の演出やマニフェストであった。今はそれではすまない。大胆な転換が迫られている。その大胆な転換を労働組合側が提起することが必要な時代になっているのではないか。

 これに対し既に穴が開いてしまった事態への対処は、対策的行動という。短期的に即効性を求める手法はほとんど対策だ。従って対策と政策は違う。短期的な即効性を求めた対策の集約版がいわゆるコストダウン改革である。財政危機に直面したとき、企画・総務の側が最初にやるのは「もっと削れ、もっと削れ」と号令を掛けることだ。そうすると何がしかの「削りしろ」が出てくる。すると妙な話だが、現場が苦労して見直しをすればするほど、トップや企画・総務の側はやっぱり削れるじゃないかと現場不信を高めることになる。この構造を覆すためにも、現場からトレードオフ提案が出てくるほうが健康なのではないかと私は思っている。つまりボトムアップ型行革に踏み込んでいくべきだろうと。それを労働組合が担うべきだろうと。

 最近のマスコミは不勉強で、「行政は非効率」「公務員は"さぼり"」「役所は利権の固まり」に決まっているとの固定観念に立って、「行政改革が望まれる」というお決まりの言葉で締めくくる記事を平気で量産する。これを逆用して職員をたたくことで人気取りをするような首長が出てきている。平松市長はそんなタイプの方ではないし、私は非常に誠実な方だと期待しているが、こうした首長も増えてきている。そうすると職員集団と政治の舵取り役である首長の間に大きな亀裂が生まれ、結果的に非効率な行政組織になってしまうという悪循環に陥ることになる。

 政策提言集団への脱皮などというと、「私は現場の人間だからそんなの判りません」という声をよく聞く。私は組合員全員が少なくとも自治体の財政構造ぐらい理解できるように、組合が大学習運動を起こすべきだと思っている。

 例えば私は三重県の伊賀市(1市2村の合併)で合併協議会の委員を3年間務めたが、約580回のタウンミーティングがあった。たかだか15万人ほどの人口だが、平均100人としても延べ5万8000人が参加したことになる。2年目には市民同士の公開討論会がはじまり、「経常収支比率」や「投資的経費」といった言葉が賛成派・反対派双方の市民の口から出てきたのには驚嘆したものだ。つまり危機をみんなが共有し、本気になって考えはじめたら学習はできる。

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 来年度から施行される自治体財政健全化法についても健全化の4つの指標、即ち普通会計における実質赤字比率、特別会計も含めた連結赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率とその構造くらいはそれほど難しくないので理解しておきたい。重要なのは全財政・全部門に及んでチェックがかかるようになったということで、以前のように縦割り構造の中で自分の部局は関係ないとは言えなくなったことだ。うちは特別会計だから関係ないといえたのは、「財政再建法」の枠組みで実質赤字比率のみが問題とされた2006年度までだ。

 旧来の枠組みは実質赤字比率が最低ラインを突破すると再生団体に転落するというものだが、夕張市は赤字を特別会計に押し付け、一時借入金をやりくりして普通会計の黒字を装った。この大失敗に懲りて国は新たに3つの指標を導入し、合計4つの指標が適用された。これにより普通会計だけ装っても済まなくなった。特別会計部門も当然評価されていく。そんな時代に入ったということだ。

 だからこそ労働組合には政策提言集団になることを追求していただきたい。また市民社会との連携を強化して、市民から「労働組合が何かいいことやってまっせ」と口コミで伝わっていくような、目に見える動きをすること。そして労働組合の公益性・社会性を積極的に外に向けて表現していくことに努めていただきたい。《次号に続く

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